福井を「発掘」する夫婦。県民の半数が見るアカウント「みどりザウルス」が、SNSで広げる地域の魅力|福井県

今回は、福井県全域の魅力を発信するInstagramアカウント「みどりザウルス」を運営する権内 恒輝さんに話を聞いた。

福井県勝山市出身。福井大学工学部で繊維・化学を学び、卒業後は炭素繊維などの先端素材を手がける繊維メーカーへ。開発部で材料開発に4年半携わったのち、在職中に立ち上げた発信活動に専念するため独立した。現在は妻とともに、「福井を発掘する夫婦」を掲げるInstagramアカウント「みどりザウルス」を運営。フォロワーは約2.9万人にのぼり、「福井県民の半数が見る」とも言われる。

デートプランやグルメ情報を中心に、福井県全域の「週末どこへ行こう」に応えてきた権内さん夫妻。その発信の原点には、コロナ禍で苦境に立たされた地元の飲食店を支えたいという想いがあった。研究職から専業の発信者へと歩みを進めた権内さんに、これまでの道のりとこれからの展望を聞いた。

宇宙への憧れから、福井大学の繊維・化学の道へ

編集部:まずは、これまでの歩みからお聞かせください。ご出身と、大学で繊維や化学を学ばれた背景を教えてください。

権内さん:出身は福井県勝山市です。もともと地元を出るという発想があまりなく、福井県内で進学先を探していました。そのなかで宇宙開発に興味があり、なかでも炭素繊維に惹かれて、福井大学の物質生命科学科を選びました。繊維や化学は、福井の地場産業とも縁の深い分野です。

編集部:奥様とも、その福井大学で出会われたそうですね。

権内さん:はい。妻は同じ大学の国際地域学部で、同い年の二人が大学で出会い、結婚に至りました。

炭素繊維の研究職として。ものづくりの現場で過ごした4年半

編集部:卒業後は、その学びを生かして繊維メーカーに就職されたのですね。どのようなお仕事に携わっていらしたのでしょうか。

権内さん:宇宙関連の材料や炭素繊維を手がける繊維メーカーに新卒で入りました。学生時代にインターンとして関わっていたこともあり、入社後はすぐに開発部へ配属されました。材料の強度を測定するなど、ものづくりの根幹に関わる仕事です。

編集部:福井のものづくりの奥深さを、現場で感じられたのではないでしょうか。

権内さん:そうですね。ブランド向けの素材に使われるような繊維も扱っていて、福井の繊維産業の幅広さを肌で感じた4年半でした。

友人4人で始めた「みどりザウルス」。夫婦2人での再出発

編集部:在職中からSNSでの発信を始められたと伺いました。「みどりザウルス」は、どのような形でスタートしたのでしょうか。

権内さん:「みどりザウルス」は、もともと大学時代の友人2人が立ち上げたアカウントでした。始まって2週間ほど経ったころ、「女性の視点も欲しい」と声をかけてもらい、当時交際していた妻と一緒に加わって、4人のチームになりました。最初の1年は毎日のように画像を投稿し、半年ほどでリール動画にも挑戦するようになりました。なかなか伸びずに悩んだ時期もありましたが、動画を取り入れてから少しずつ手応えが出てきました。

編集部:現在はご夫婦お二人での運営です。4人から2人へ、どのような経緯があったのでしょうか。

権内さん:フォロワーが1万人に届いたころ、創業メンバーの2人がそれぞれの事情で離れることになりました。一人は県外へ転勤し、もう一人も生活の変化が重なって。気づけば、私たち夫婦の2人で続けていく形になっていました。

コロナ禍の飲食店を、SNSの力で。発信の原点

編集部:「福井を発掘する夫婦」として県民に向けた発信を続けておられますが、その原点には、どのような想いがあるのでしょうか。

権内さん:始まりはコロナ禍でした。当時、応援していた福井の飲食店が、客足が遠のいて閉店してしまったんです。きっと同じように苦しんでいるお店が、ほかにもたくさんあるはずだと感じました。SNSの力で少しでも力になれないか——それが出発点です。

編集部:その想いは、いまの発信にもつながっているのですね。

権内さん:はい。いまも軸にあるのは、福井県民に向けて「週末どこへ行こう」という問いに応えること。夫婦やカップルで楽しめるお出かけやグルメを中心に紹介しています。フォロワーの多くは福井県内の方で、地元に届く発信を大切にしています。

会社員から、専業の発信者へ

編集部:その想いを形にするなかで、お二人とも前職を離れ、発信に専念する決断をされたのですね。

権内さん:はい。会社員を4年半務めたのち退職し、まもなく個人事業として開業しました。妻も勤めていた会社を辞め、いまは二人で専業として取り組んでいます。

編集部:発信の主な舞台は、やはりInstagramでしょうか。

権内さん:そうですね。メインはInstagramで、同じ動画をTikTokにも上げることがあります。投稿数は350件近くになりました。

発信から、地域の発信力づくりへ

編集部:現在は、ご自身の発信に加えて、地域の事業者や行政との連携にも活動を広げておられると伺いました。

権内さん:SNSの運用代行や、広告用の動画制作なども手がけています。福井市のスポーツ振興の取り組みのなかでは、地元のプロバスケットボールチーム「福井ブローウィンズ」やサッカークラブ「福井ユナイテッドFC」を盛り上げるためのサポートに、動画や台本の添削という形で関わらせてもらいました。

編集部:ご自身が発信するだけでなく、地域の発信力そのものを高める役割も担われているのですね。

権内さん:そう言っていただけるとうれしいです。同じ福井で活動する発信者の方々とも、横のつながりを大切にしています。

福井の魅力は「食」。県外で気づいた豊かさ

編集部:福井で生まれ育ち、その魅力を発信し続けている権内さんから見て、この土地のいちばんの魅力はどこにあるとお考えですか。

権内さん:やはり食ですね。福井のグルメは本当にレベルが高いと思います。前職時代、茨城県の水戸と福井を2週間ごとに行き来する生活をしていた時期があり、いろいろな土地の食に触れるなかで、あらためて福井の食の豊かさを実感しました。海の幸も山の幸もそろっていて、地元にいると当たり前に思いがちですが、本当に恵まれた土地だと感じます。

編集部:北陸新幹線の福井延伸など、近年は県外との往来も増えています。地域の変化を感じることはありますか。

権内さん:数字の上では、県外からいらっしゃる方やインバウンドが増えていると聞きます。ただ、県民として日々の暮らしのなかで実感するかというと、まだそこまでではないかもしれません。だからこそ、私たちのような地元目線の発信で、福井の本当に良いところを伝えていく意味があると思っています。

これから目指すもの。「週末の相棒」として

編集部:最後に、「みどりザウルス」として、これから目指していきたいことを教えてください。

権内さん:まずは、福井県民にとって「週末の相棒」のような存在であり続けたいです。そのうえで、地元の事業者さんや行政の方々と一緒に、福井全域の魅力をもっと多くの人に届けていきたい。私たち夫婦の発信が、地域のお店や人の元気につながっていく——そんな循環をつくっていけたらと思っています。

プロフィール:権内 恒輝(みどりザウルス)

福井県勝山市出身。福井大学工学部物質生命科学科で繊維・化学を専攻。在学中から関わっていた繊維メーカーに新卒で入社し、開発部で炭素繊維などの先端素材の開発・評価に4年半携わる。在職中に友人らとInstagramアカウント「みどりザウルス」を立ち上げ、のちに妻とともに運営の中心を担う。退職後に独立し、現在は夫婦2人で専業の発信者として活動。「福井を発掘する夫婦」として、デートプランやグルメを中心に福井県全域の魅力を発信(フォロワー約2.9万人)するほか、SNS運用代行や広告動画制作、地域・行政との連携にも取り組む。

編集後記

炭素繊維の研究職という、SNSとは一見遠い世界から歩みを始めた権内さん。その経歴に通底しているのは、「福井のものづくり」への眼差しであり、地元への確かな愛着だ。コロナ禍で失われていく地元の灯を前に、「SNSの力で何とかできないか」と動き出した姿勢は、地域の課題を自分ごととして引き受ける担い手のそれにほかならない。

夫婦2人で福井県民の半数に届くアカウントを育て上げた背景には、毎日の投稿を積み重ねた地道な努力がある。デートプランやグルメといった身近な情報の発信は、県民が地元を再発見し、足を運ぶきっかけを生み出している。

発信者でありながら、運用代行や行政との連携を通じて地域の発信力そのものを底上げしようとする権内さん夫妻。「福井を発掘する」というまなざしが、これからどんな魅力を県内外に届けていくのか、注目していきたい。