教育現場で培った「実装力」で今治を変える。上村悦男議員が語る、教育DXと地場産業のこれから|愛媛県今治市

今回は、愛媛県今治市の市議会議員・上村悦男氏に話を聞いた。上村議員は今治市議会で2期目を務め、会派は直心会。現在は産業生活委員会、予算特別委員会に所属する。小学校・中学校の校長を歴任し、県教育委員会でも教育行政に携わった経歴を持つ、現場叩き上げの市議だ。 (今治市公式ホームページ)

学校のICT環境づくりから、AIを活用した議員活動、そして今治タオル産業の課題まで。上村議員の言葉を追うと、「地方創生」とは派手なスローガンではなく、現場の不便を一つずつ解消していく営みなのだと見えてくる。

教員として歩んだ原点

編集部:まず、教員を志した原点から教えてください。

上村議員:自分一人で何かをするより、もっと多くの子どもたちの成長に関わる方が意味があると思ったんです。小学校、中学校の両方で現場に立ってきましたが、学校って、子どもを育てるだけじゃなくて、その地域の未来を育てる場所でもあるんですよね。

教員として長く学校現場に身を置きながら、上村議員は学校経営と教育行政の両面を見てきた。その経験が、いまの議員活動の土台になっている。

ICTゼロの学校で始めた挑戦

編集部:教育現場で特に強く問題意識を持たれていたのは、どんなことでしたか。

上村議員:やっぱりICTですね。校長をしていた頃、教室にパソコンがまったくない学校があったんです。芸予地震の後、危険だということでブラウン管テレビが撤去されて、そのままずっと何も入ってこない。これは待っていても変わらないなと思って、地域の方にお願いして、テレビやパソコンを寄付で集めました。

現場で必要なものを、制度が整うのを待たずに動いて整える。その姿勢は、上村議員の仕事観そのものだ。本人によれば、もともとExcelの世代ではなく、一太郎や三四郎を使ってきた世代。それでも先生たちが困らないように、コピー&ペーストで分析できるシートを自作し、授業改善や校内のデータ活用を前に進めてきたという。

また、校長時代には国立教育政策研究所の指定校事業にも学校として関わっており、現場の実践を研究レベルまで高めることにも取り組んできた。 (愛媛大学)

教育の外側から、まち全体を変えたい

編集部:教員から議員へ転身された理由は何だったのでしょうか。

上村議員:学校の中でできることには限界があると感じたんです。教育のICT化が遅れていることもそうですし、教育委員会との距離感もそう。もっと言えば、広報の仕方や産業の伸ばし方まで含めて、自治体全体の設計の問題だと思ったんです。だったら、もっと広い立場から関わってみようと。

教員を退職した後、上村議員が政治の世界に入った背景には、「教育の課題は教育だけでは解けない」という実感があった。実際、議会でも学校現場に根差したテーマを継続的に取り上げており、2025年6月定例会では「学校における教員の働き方改革」について質問している。

AIは、議員の仕事を「速く、深く」する

編集部:現在の議員活動では、AIも積極的に活用されているそうですね。

上村議員:使っています。予算資料をAIに読み込ませて、議会質問のたたき台をつくることもありますし、公民館の利用状況みたいな分析も、前ならExcelでかなり時間をかけていたのが、今は一気に見えるようになりました。

上村議員が使うのは、AIを「答えを出す機械」としてではなく、「論点を整理する相棒」として使う感覚だ。膨大な資料を読み込み、論点を抽出し、必要な視点を並べる。その初速が上がることで、議員として本当に考えるべき部分に時間を使えるようになるという。

さらに印象的なのは、上村議員がAIに対して丁寧語で接していることだ。冗談まじりに「将来のことを考えたら、丁寧に話しておいたほうがいいでしょう」と語るが、その姿勢の奥には、新しい技術を頭ごなしに否定せず、まず使ってみるという一貫した態度がある。

ALT40人体制だけでは足りない。問われるのは「設計力」

今治市は、フィリピン共和国セブ州ラプラプ市との国際交流協定をきっかけに、2026年度から市内小中学校のALTを17人から40人へ増員する方針を打ち出している。「英語教育を受けるなら今治市で」という看板を掲げ、今治型学校教育をさらに前へ進めようとしている。

一方で、上村議員は「人数を増やせばそれでいいわけではない」と冷静だ。

上村議員:もちろん、英語に触れる機会が増えること自体は大事です。でも、結局はカリキュラムがどう設計されるのか、先生の質がどう担保されるのかなんです。数だけ増やしても、教育の中身が伴わなければ意味がない。

教育現場を知るからこそ、上村議員の視点は常に「制度の先」に向いている。予算が付いたかどうかではなく、それが子どもの学びにどうつながるのか。地方創生においても、教育政策においても、その問いは重い。

今治タオルは「良いもの」だからこそ、売り方を変える

上村議員が教育と並んで強い関心を寄せるのが、今治の地場産業だ。特に今治タオルについては、「品質は高い。でも、それだけでは生き残れない」と見る。

上村議員:今治タオルって、本当にいいものなんです。でも、いいものを作ることと、売れることは別なんですよ。今、苦しい事業者さんが多いのは、品質よりも“売り方”の問題が大きいと思っています。

今治市の2026年3月定例会の施政方針と記者発表では、ふるさと納税の寄付額は過去最高の38億円規模が見込まれ、返礼品としてはタオルや柑橘など地域特産品が高い人気を集めているとされる。上村議員も、こうした流れ自体は前向きに評価している。 (今治市公式ホームページ)

ただし、ふるさと納税で一時的に注目されるだけでは、産業の持続性は担保できない。自治体の広報戦略、商品設計、販路開拓、そして地域内での利益循環まで含めて考えなければ、本当の意味での産業振興にはならない——。上村議員の問題提起は、その先を見据えている。

「長くやる」より、「今できることをやる」

編集部:これから議員として、どんなことを実現していきたいですか。

上村議員:私は、議員を長く続けること自体を目標にはしていないんです。それより、ICTで実現できることを、ちゃんと形にしたい。今の時代だからできることを、今治でどこまでやれるか。それをやってみたいんです。

任期に執着するのではなく、やるべきことに集中する。その潔さもまた、上村議員らしさだろう。現場で困っている人がいれば仕組みを変える。時間が足りなければAIを使う。産業が伸び悩むなら、売り方から問い直す。

地方創生とは、壮大な理想論ではなく、目の前の不都合を放置しないこと。その実装の積み重ねが、地域の未来を変えていく。上村悦男議員の言葉には、そのことを思い出させる力があった。

プロフィール:上村 悦男(うえむら・えつお)

今治市議会議員。会派は直心会、2期目。産業生活委員会、予算特別委員会に所属。小学校・中学校の校長を歴任し、教育行政にも携わった経験を持つ。 (今治市公式ホームページ)

編集後記

上村議員の話で一貫していたのは、「制度を待たない」という姿勢だった。学校にICTがないなら、自分で集める。資料分析に時間がかかるなら、AIを使う。地域産業が伸び悩むなら、売り方から考え直す。教育も産業も議会も、根っこにあるのは“現場をよく見て、実際に動く”というシンプルな哲学だ。今治の未来を考える上で、その実装思考は大きなヒントになる。