京都府の南東部に位置し、日本茶発祥の地として知られる宇治田原町。ハートの形をした「正寿院」の猪目窓など、観光地としても注目を集めるこの町で、地域おこし協力隊として奮闘しているのが西山 元太さんです。京都の有名ホテルでウェイターとして勤務していた西山さんは、なぜ20代前半という若さで、人口約9,000人のこの町へと足を踏み入れたのか。そこには、背中を押してくれた家族の存在と、自然豊かな環境で見つけた「自分らしい歩み」がありました。

「何も夢はなかった」から始まった、母が教えてくれた新天地
編集部:移住前は京都ブライトンホテルのレストランで働かれていたそうですね。
西山さん:はい。高校を卒業してから約3年間、中華レストランのウェイターとして勤務していました。当時は特に将来の夢もなく、ただ日々の業務をこなす毎日だったんです。そんな時、隣町の役場で働く母が「宇治田原町で地域おこし協力隊を募集しているよ」と教えてくれました。母は以前からこの制度を勧めてくれていて、「一度チャレンジしてみようかな」と応募したのがきっかけです。
編集部:実際に宇治田原町に来てみて、いかがでしたか。
西山さん:地元の人からは「20歳(着任当時)でよく来たね」と驚かれました。でも僕自身、自然が好きなので、家の前に茶園が広がるこの町ののどかな雰囲気はすごく気に入っています。時間の流れがゆっくり感じられて、自分には合っているなと思いますね。

都会での接客業を経て、お母様の勧めを機に新天地へ飛び込んだ西山さん。23歳(2026年2月現在)という若さでありながら、落ち着いた雰囲気を持つ彼の背景には、宇治田原町の穏やかな空気感が重なっているようです。
リノベ施設「宗円交遊庵やんたん」の運営を一手に担う
編集部:メインの活動内容について教えてください。
西山さん:町営の交流施設「宗円交遊庵やんたん」の運営支援です。ここは元お茶工場を大規模にリノベーションした施設で、カフェや体験プログラムを提供しています。母体は地域の有志の方々のグループなのですが、実質的なレジ業務や運営全般を僕が担当しています。
編集部:1人で回されることもあると伺いました。
西山さん:冬場は来客が落ち着く時期もありますが、地元のスタッフの方々とコミュニケーションを取りながら、日々お店に立っています。正直、協力隊のミッションとしての比重はここが10割に近いほど忙しいですが、ホテル時代に培った接客スキルが今の運営にとても役立っています。

歴史あるお茶工場を再生させた施設の運営という重責を、持ち前のホスピタリティで支える姿が印象的です。幅広い年代が関わるチームの中で、若きプロフェッショナルとして信頼を築いている様子が伝わります。
焼き芋の移動販売と「狩猟」への挑戦。フリーミッションの広がり
編集部:忙しい運営の合間に、独自の活動もされているそうですね。
西山さん:はい。昨年の夏に新しく入った協力隊の仲間と協力して、冬場は「石焼き芋」の移動販売を始めました。茨城県産の美味しいさつまいもを焼き上げ、販売時には宇治田原町の広報誌やお茶のティーバッグをプレゼントして、町のPRも兼ねています。
編集部:さらに「狩猟」の免許も取得されたとか!
西山さん:1年目にわなの狩猟免許を取りました。近所のお茶農家さんから「鹿が出るから捕ってほしい」と頼まれることもあって。まだ獲物はかかっていませんが、今年は本格的に仕掛けていく予定です。自分が育てたさつまいもで干し芋を作って販売したり、地域の農産物を還元していく活動にも力を入れていきたいですね。

施設の運営だけでなく、移動販売や狩猟、さらには週末のサッカーコーチまで。西山さんの活動は多岐にわたります。「地域おこしらしいことができていない」と謙遜する彼ですが、若者が現場で汗を流すその姿こそが、町にとっての大きな活力になっています。
「ちょうどいい田舎」宇治田原町の可能性
編集部:西山さんが感じる、宇治田原町の魅力は何でしょうか。
西山さん:一言で言えば「ちょうどいい田舎」です。京都や大阪、奈良のどこへ行くにも車で1時間圏内。町内にはスーパーも薬局もコンビニも揃っているので、生活に不便はありません。でも一歩外に出れば圧倒的な自然がある。最近は町長も若返り、新しい高速道路の開通も控えているので、これからさらに面白くなっていく予感があります。
編集部:任期が終わった後のイメージは描けていますか。
西山さん:正直、卒業後の進路はまだ定まっていません。でも、この3年間で出会った人々や経験は自分にとっての財産です。焼き芋の活動をさらに伸ばして、いつか自分のお店を持つのもいいかな、なんて少しずつ考え始めています。まずはあと1年、この町での出会いを大切に、自分がパワーアップできるような活動を続けていきたいです。

利便性と豊かな自然が共存する「ちょうどいい田舎」で、着実に自身のスキルを磨く西山さん。「やりたいことを見つける3年」の締めくくりに向けた彼の歩みは、同世代の若者にとっても一つの道標となるはずです。
編集後記
23歳の若さで、地元のベテラン住民たちと対等に渡り合い、施設の運営を支える西山さん。ホテルマンとしての「おもてなしの心」は、形を変えて宇治田原町の人々を癒す力になっていました。「焼き芋×狩猟×サッカー」というユニークな掛け合わせを持つ彼が、これからの1年でどんな成果を収穫するのか。宇治田原町の「ちょうどいい田舎」暮らしは、彼自身の未来もゆっくりと、着実に醸成しているようです。
