日本屈指の観光地、京都。しかし今、その中心部はオーバーツーリズムという大きな課題に直面している。観光客が特定のエリアに集中し、本来の静謐さが失われつつある中で、京都市内の喧騒を離れ、京都の「縁(ふち)」にある知られざる魅力をレンズ越しに発信し続ける一人のクリエイターがいる。
久徳研一郎氏。Instagramを中心に活動する彼は、京都南部に位置する八幡市の風景や、世界遺産・下鴨神社の神事、さらには和束町の茶畑など、まだ光が十分に当たっていない「奥行きのある京都」を切り取り続けている。自治体や社寺からも厚い信頼を寄せられる彼の活動の原点には、地元への純粋な愛着と、たゆまぬ継続の力があった。
SNSを通じて地域の魅力を再定義し、新たな人の流れを生み出そうとする久徳氏に、その想いを聞いた。

編集部:まずは、久徳さんがカメラを手に取り、発信を始められたきっかけを教えてください。
先方久徳:実は、最初はごく身近な生活の記録から始まったんです。5年ほど前、近所にコストコができた際に「どんなものが売っているんだろう」とスマホで撮って発信し始めました。それがきっかけでInstagramの世界を知り、京都の風景を本当に綺麗に撮っている方々の写真に触れて、「自分も地元の景色を美しく残したい」と強く思うようになったんです。最初はスマホでしたが、独学で撮影を続け、今ではソニーのαシリーズを愛用しています。
編集部:京都といえば誰もが知る名所が数多くありますが、久徳さんが特に注力されている「京都の南側」には、どのような魅力があるのでしょうか。
先方久徳:京都市内は確かに素晴らしいですが、今は人が多すぎて、落ち着いて風景と向き合うことが難しくなっています。一方で、私の地元である八幡市や、和束町、宇治田原町といった京都南部には、本質的な体験ができる場所が数多く眠っています。例えば、時代劇のロケ地としても有名な「流れ橋」や、山間に広がる美しい茶畑。こうした場所は、定番の京都に飽き足らない旅人にとって、非常に魅力的な「次なる目的地」になると確信しています。

編集部:そうした「知られざる魅力」を発信し続けることで、京都全体の観光のバランスを整えたいという想いもあるのでしょうか。
先方久徳:そうですね。オーバーツーリズムの解決策の一つは、魅力を分散させることだと思っています。和束町の茶畑の中に作られたカフェや、体験型のコンテンツなどは、インバウンドの方々にも非常に人気です。一度京都に来たことがある方が、「次は違う場所へ」と考えた時の受け皿をどう作るか。私の写真や発信が、そのきっかけになれば嬉しいです。
久徳氏の視線は、単に綺麗な写真を撮ることだけにとどまらない。その土地の歴史や物語をどう視覚化し、届けるべき相手に届けるか。ITメディアの知見も感じさせる戦略的な視点が、彼の作品に深い説得力を与えている。

編集部:活動を続ける中で、下鴨神社の公式待ち受け画面に採用されたり、アンバサダーを務められたりと、各方面からの信頼も厚いですね。
先方久徳:継続して発信し続けてきたことで、少しずつ繋がりができていきました。八幡市や長岡京市、そして下鴨神社といった社寺の方々とも、現場で対話を重ねることで信頼関係を築かせていただいています。普段は入れない場所での撮影を許可いただいたり、行事の記録を任せていただいたりと、地域の「中の人」として認められたことは大きな財産です。
編集部:これからの久徳さんが目指す、地域発信の形を教えてください。
先方久徳:これからも、京都の南側を中心に、まだ世に知られていない宝物を掘り起こしていきたいです。活動の場は京都にとどまらず、福井県でのプロジェクトや、クリエイティブカンパニー『NAKED, INC.』さんのプロジェクションマッピングの撮影など、新しい表現にも挑戦しています。これからも現場の「熱量」を大切にしながら、その土地の人が誇りを持てるような一枚を撮り続けていきたいですね。
インタビューを終えた彼の言葉からは、地域住民や自治体関係者への深い敬意が伝わってきた。久徳氏が写し出すのは、単なる風景ではない。オーバーツーリズムという課題を乗り越え、京都という土地が本来持っている「静かなる鼓動」そのものなのだ。
久徳研一郎というフィルターを通じ、京都の南から、日本の地域発信の新たな形が描き出されていく。
