大分県日出町(ひじまち)。別府市に隣接し、豊かな湧水と城下町の風情を残すこの町で、一人の女性が「地域と外の人を繋ぐ」仕組みづくりに挑んでいます。元旅行会社勤務、そして小豆島でのホテル運営という経歴を持つ義川さん(通称:ひじさや)。彼女が日出町で何を目指しているのか、その軌跡を辿ります。

都会の喧騒を離れ、「顔の見える関係」を求めて地方へ
編集部: 義川さんは大阪のご出身で、前職は東京の大手旅行会社にいらしたそうですね。移住を考えたきっかけは何だったのでしょうか?
義川さん: 大学でインターナショナルビジネスを学び、卒業後は旅行会社で営業や商品造成に携わっていました。仕事自体はやりがいがありましたが、大組織ゆえに自分の役割が細分化されており、もっと全体を見渡せる、手触り感のある仕事をしたいという想いがありました。また、東京のスピード感に少し疲弊してしまったことも移住を考えたきっかけです。
編集部: 東京から香川へ、不安はありませんでしたか?
義川さん: 仕事を通じて香川県の方々と接する中で、地方特有の「深い人間関係」の中で働く方が自分には向いているのではと感じました。有難いことに仕事を通じてお世話になっていた香川県の観光従事者の方々が温かく迎え入れてくださる環境があったので、転職への不安は少なかったですね。

義川さんは旅行会社時代、香川や兵庫のホテル・旅館への仕入れ営業を担当していました。この時、単なる取引先としてではなく、地域の方々の懐に飛び込み、共に商品を作り上げた経験が、後の「地方で働く」ことへの自信と、人脈を通じた軽やかな移住への一歩に繋がっています。
現場で痛感した「観光地の人手不足」という壁
編集部:移住後、香川県の小豆島ではどのようなお仕事をされていたのですか?
義川さん: リゾートホテルで2年強働きました。宿泊予約のコントロールからSNS広報、フロントやレストランの現場まで業務は多岐にわたりました。広報体制が未整備だったので、自らカメラを持って動画を撮り、ストーリーを組み立てて発信もしました。また、香川県全体の観光戦略部会にも参加し、台湾へ赴いてインバウンド誘致を行うなど、幅広く観光にも携わりました。
編集部: 現場に入ったからこそ見えた課題もあったのでは。
義川さん: はい。どれだけ広報を頑張って台湾などからお客様を呼んでも、受け入れる「人」が足りないんです。高齢化が進み、人手不足のせいで部屋を売り止めにせざるを得ない機会損失を目の当たりにし、「外から人を呼び込み、地域と混ざり合う仕組みを作っていく必要があるのでは」と痛感しました。

小豆島ではホテルの枠を超え、香川県全体の観光戦略部会にも参加していた義川さん。台湾でのセールス活動を通じて「地域の魅力を伝える」楽しさを知る一方で、現場の疲弊を肌で感じてきました。この「広報」と「人材不足」の両面を見てきた経験が、現在の日出町でのミッションに直結しています。
日出町での「地域おこし協力隊」としての挑戦
編集部: その想いが、現在の大分県日出町での活動に繋がっているのですね。
義川さん: はい。観光地が抱える「人手不足」を解決するには、外から人を呼び込み、地域の方々と交流できるコミュニティを育むことが不可欠だと考えています。2025年8月から日出町の地域おこし協力隊に着任してから、タウンプロモーション全般に加え、将来の移住・定住を見据えた「二地域居住」の普及に力を入れています。
編集部: 2025年12月に実施された「じぶんぐるみ」のツアーは、非常にユニークな試みですね。
義川さん: 自分の分身であるぬいぐるみ『じぶんぐるみ』だけが日出町を旅する、という企画です。ぬいぐるみだからこそ体験できる特別な時間を写真に収め、持ち主の方に「思い出アルバム」としてお届けしました。まずは分身を通じて町の空気を感じていただき、それをきっかけに「日出町へ行ってみよう」という実際の訪問に繋げたいという狙いがあります。
編集部: 心理的な距離を縮める工夫ですね。二地域居住について大切にしていることは何ですか?
義川さん: 地方暮らしに不安を感じている方が生活拠点を移す際、大切なのは「地域慣習への愛着」だと思うんです。本人だけでなく、そのご家族も含めて地域の文化や習慣に触れ、「この町から離れがたい」と感じてもらえる仕掛けが必要だと感じています。
編集部: 日出町のポテンシャルをどう活かしていきたいですか?
義川さん: 日出町はとにかくアクセスと住環境のバランスが抜群なんです。空港まで30分、別府まで車で15〜20分とアクセスが抜群に良く、非常にコンパクトで住みやすい町です。サンリオのハーモニーランドやリゾート化計画など、魅力も多いです。今後は、来町者と地域住民の交流拠点となる場を運営し、人と人、企業と企業を繋いでいけるような人材を目指して、地域に貢献していきたいですね。

義川さんの提案する施策は、単なる「景色の紹介」に留まりません。ぬいぐるみを通じた情緒的なアプローチや、地域慣習への愛着を重視した関係人口づくりは、ホテル業務で痛感した「人手不足」という課題に対する解決法と言えます。日出町が持つポテンシャルを、いかに「人の体温」が伝わる形で外へ届けるか。義川さんの挑戦は、地方創生の新たなモデルケースとなるのではないでしょうか。
未来への展望:任期を終えたその先に見るもの
編集部: 今後の活動や、協力隊の任期終了後の展望について教えてください。
義川さん: 協力隊としての任期はまだ2年以上あります。具体的な進路はこれからですが、まずは日出町での活動に全力投球したいと考えています。
編集部: ご自身の体験が、そのまま次の移住者へのエールになっていますね。
義川さん: ありがとうございます。私がそうだったように、都会で悩んでいる方が「地方なら自分を活かせるかもしれない」と思えるような、そんなきっかけを日出町から作っていきたいです。
編集後記
都会の大手旅行会社から地方へ移住され、地域の課題を知ったからこそできる支援がある。義川さんの言葉からは、地域存続への強い使命感が伝わってきました。
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