新卒で北海道・長沼町へ。横浜育ちの23歳が、古着とカフェで描く起業への挑戦 —— 兼松成伍さん|北海道長沼町

札幌から車で約50分。広大な田園風景が広がる北海道長沼町。ここで、「新卒で地域おこし協力隊になる」という選択をした23歳の若者がいます。横浜で育ち、東京農業大学で海外支援を学んでいた兼松さん。コロナ禍で海外への道が閉ざされたことをきっかけに、日本の地方へと目を向けました。宮崎での住み込みボランティアを経て、長沼町で挑むのは、古着とカフェを軸にした場所作りです。着任後わずか数ヶ月で開業届を出し、自らの手で事業を立ち上げた兼松さんに、その行動力の源泉と長沼での暮らしについて伺いました。

海外支援への情熱から、日本の「田舎」へ

編集部: 兼松さんは横浜のご出身で、大学では農業を学ばれていたそうですね。もともとどのような経緯で現在の道に進まれたのでしょうか。

兼松さん: 横浜市の緑区出身です。大学は東京農業大学に進み、国際支援や貧困地域の力になりたいと考えていました。中学生の頃から環境問題やファッション業界の廃棄問題などにも興味があり、将来は海外支援に携わりたいと思っていたんです。ただ、大学生の時にコロナ禍が重なり、予定していた海外への渡航ができなくなってしまいました。そこで視点を国内に移し、日本の地方に興味を持つようになったんです。

編集部: 海外への道が閉ざされたことが、国内の地方に目を向けるきっかけになったのですね。

兼松さん: はい。大学2年生の頃から、宮崎県のキャンプ場で住み込みのボランティアを始めました。そこで2年、3年、4年と通い続ける中で、オーナーさんが地域おこし協力隊という制度を教えてくれたんです。田舎に移住するなら、こういう制度を賢く使うべきだと。そこから、就職活動の選択肢として協力隊を真剣に考えるようになりました。

「新卒」を受け入れてくれた、長沼町の懐の深さ

編集部: 数ある自治体の中で、なぜ北海道の長沼町を選んだのでしょうか。

兼松さん: 大学3年生から情報収集を始め、さまざまな自治体の取り組みを調べました。いろいろな自治体や地域で活躍する移住者の話を聞く中で、自分も地域の中で挑戦してみたいという思いが強くなっていったんです。自分のやりたいことを形にできる「フリーミッション」の方が自分には合っていると感じるようになりました。ただ、多くの自治体は新卒よりも経験者を求めていて、なかなか首を縦に振ってくれませんでした。そんな中で、長沼町は僕の熱意を汲み取り、新卒という立場であっても「まずは挑戦してみてください」と、前向きに受け入れてくれたんです。

編集部: 新卒というカードを使い、4月の入社タイミングで着任されたわけですね。

兼松さん: そうです。昨年の4月に着任しました。現在は町全体で11人の隊員が活動しています。僕が入っている政策推進課は非常に自由度が高く、将来の起業を見据えた活動を全面的に応援してくれています。役場に籠るのではなく、町に出て自分の事業を作る。それが町のためにもなるというスタンスが、僕の理想とする働き方にぴったりでした。

着任3ヶ月での開業。古着とカフェで「人が集まる場所」を作る

編集部: 着任してすぐに開業届を出されたとお聞きしました。現在はどのような事業を展開されていますか。

兼松さん: 7月に個人事業主として開業しました。メインは「古着屋」です。もともと大学時代に古着屋でバイトをしていた経験もあり、仕入れルートを活かしてイベント出展やオンライン販売から始めました。長沼町には古着屋がなかったので、まずは自分がそのポジションを取ろうと考えたんです。今は4月の実店舗オープンに向けて、空き店舗を借りてDIYで内装を整えているところです。

編集部: 実店舗では、カフェも併設される予定だそうですね。

兼松さん:ゆったりできるカフェスペースも作りたいと思っています。古着をきっかけに人が集まり、そこでコーヒーを飲みながら新しい繋がりが生まれる。そんな拠点を自らの手で作りたいと考えています。SNSでも長沼の魅力的なスポットや僕の日常を発信し、町外の人にも興味を持ってもらえるよう工夫しています。

年間200万人が訪れる町の可能性と、これからの挑戦

編集部: 実際に長沼町に住んでみて、どのような魅力を感じていますか。

兼松さん: 想像していたよりもずっと暮らしやすいです。空港から車で30分、札幌からも50分という好立地もあり、長沼町には年間200万人もの観光客が訪れます。この人の流れは大きなチャンスだと感じています。任期が終わった後もこの町で食べていけるよう、まずはこの1年で古着屋を軌道に乗せることが今の最優先事項です。

編集部: 長沼町で生きていくための土台を、今まさに築いているところなのですね。

兼松さん: 任期後もこの町で活動を続けていくために、自分の事業の土台をしっかりと作っておきたいという前向きな思いがあります。将来の自立を見据えて、複数の収益の柱を準備し、冬の生活も経験しながら、自分なりのスタイルを確立したいと思っています。長沼には面白い個人事業主の方が多いので、日々刺激を受けています。ここでしっかりと稼いで生活していける実績を作ることが、僕にとっての今の挑戦です。

編集後記

「新卒で協力隊」という選択をした兼松成伍さん。その選択を自らの手で正解にするために、緻密な戦略と圧倒的な初動の速さで道を切り拓いていました。横浜という都会から北海道の小さな町へ根を下ろし、古着というツールで新しい風を吹き込もうとする姿は、地方における起業の新しい形を提示しています。春にオープンする彼の店が、長沼の新しい交流拠点になる日を心から楽しみにしています。