静岡県、新幹線の掛川駅からほど近い場所に位置する菊川市。広大な茶畑が広がるこの街に、2025年11月、強力な助っ人が加わりました。梅津有紀さん、通称「うめもん」。日本を代表するIT企業・リクルートで、ホットペッパーグルメやスタディサプリ進路といった大規模プロダクトの戦略策定やUXデザインに10年間携わってきたプロフェッショナルです。

現在は菊川市の地域おこし協力隊として、SNSを活用した魅力発信や、街の玄関口である駅のリニューアルプロジェクト、さらには歴史的建造物の展示改善など、多岐にわたる活動を展開しています。東京生まれ東京育ちの彼女が、なぜ縁もゆかりもなかった菊川市を選んだのか。そして、デジタルマーケティングの最前線で培ったスキルを、地方創生の現場でどう活かそうとしているのか。静岡県菊川市を拠点に、街のファンを増やそうと奔走するうめもんさんにお話を伺いました。
情報デザインの視点で、地域の愛着を形成する
編集部:梅津有紀さんは大学時代からデザインを専攻されていたそうですが、当時はどのような研究をされていたのでしょうか。
うめもんさん:首都大学東京(現:東京都立大学)のシステムデザイン学部インダストリアルアート学科で、情報デザインの研究室に所属していました。当時は新潟県魚沼市の限界集落などに足を運び、地域の方々と一緒にウェブコンテンツを作る活動をしていました。地域のおじいちゃんやおばあちゃんと共に発信に取り組むことで、住民の方々の地域に対する愛着(シビックプライド)がどう変化するか、という態度変容の研究です。この時の経験が、私の地方創生に対する関心の原点になっています。
編集部:卒業後はリクルートに入社し、10年間という長いキャリアを積まれています。具体的にはどのようなお仕事をされていたのですか。
うめもんさん:新卒から一貫して、プロダクトの戦略策定やUXデザイン、PdM(プロダクトマネージャー)としての業務に携わってきました。具体的にはホットペッパーグルメなどの画面設計や、ユーザーがどうすれば使いやすくなるかといった改善、ABテストを繰り返す日々でした。システム仕様の策定からディレクションまで、ITの最前線で10年間走り続けましたが、次第に自分が本当にやりたかった地方創生に、身につけたスキルを活かして挑戦したいという思いが強くなり、2025年に独立を決意しました。

SNSから繋がった、菊川市との偶然の縁
編集部:数ある自治体の中から、なぜ菊川市を選ばれたのでしょうか。
うめもんさん:実は、最初は菊川市という場所を詳しく知っていたわけではありませんでした。独立を考えていた時期、たまたまSNSを見ていたら、以前から好きだった「ジモコロ」の元編集長が、菊川市の求人をシェアしているのを見たのがきっかけです。今はこんな専門的な募集もあるんだと興味を持ち、さらに私の旧姓が「菊本」だったこともあって、勝手にシンパシーを感じたのが始まりです。
編集部:実際に移住を決める際、決め手となったポイントはどこにありましたか。
うめもんさん:菊川市が専門的なスキルを持つ人材を求めていたことです。求人を通じて菊川市の柔軟で前向きな姿勢を感じました。ここなら自分の経験を活かして、腰を据えて活動できると感じたことが決め手になりました。また、協力隊の報酬面などの条件も、他の自治体と比較して非常に前向きに設定されており、プロフェッショナルとして尊重されていると感じたことも大きな理由です。

駅のリニューアルから「謎のゴリラ」まで。街を面白くする仕掛け
編集部:着任してから約3ヶ月とのことですが、現在はどのようなプロジェクトを動かしているのでしょうか。
うめもんさん:大きなものとしては、2026年3月に予定されている菊川駅のリニューアルプロジェクトです。南北通路が開通するタイミングに合わせて、市民の皆さんが盛り上がれるようなイベント企画や、ロゴデザインの提案を行っています。硬い事業名のままでは親しまれにくいので、共通のビジュアルを作ってポップに発信しようと動いています。また、重要文化財である「黒田代官屋敷」の資料館についても、展示方法や見せ方を改善し、リピーターを増やすためのコンテンツ作りを企画しています。
編集部:菊川市の意外な魅力や、個人的に推しているスポットはありますか。
うめもんさん:日本に二つしかないと言われる人力ロープウェイの「野猿(やえん)」は、池の上を自走する体験ができて非常に面白いです。また、個人的に今一番注目しているのは、茶畑の中に佇む「菊川ゴリラ」という謎の像です。誰が何の目的で置いたのか分からないのですが、地元の方に愛されている。こういった面白いストーリーを持つものをキャラクター化したり、グッズを作ったりすることで、街への愛着を注ぐきっかけを作りたいと考えています。

戦略的な広報で、菊川市の「伸びしろ」を最大化する
編集部:今後の活動を通じて、菊川市をどのような街にしていきたいですか。
うめもんさん:現在は主にSNSでの発信を担当していますが、プロモーションは単なる発信だけではありません。都市部の人たちとのタッチポイントをどこに作るか、どうやって定住人口や関係人口を増やしていくかという戦略の部分が重要です。市役所の方々と協力しながら、民間の視点で既存の魅力をどうブラッシュアップできるか、日々考えています。
編集部:行政との連携においても、これまでの経験が活かされているようですね。
うめもんさん:菊川市の方は非常に前向きで、やりたいことを自由にやらせていただける環境があります。予算や制度の制約がある中でも、外部企業との連携や助成金の活用など、自分たちが動くことで道は開けると感じています。菊川市にはまだまだ伸びしろしかありません。素晴らしい素材を、UXデザインや戦略的な広報の力で磨き上げ、多くの人に選ばれる街にしていきたいです。

編集後記
リクルートでの10年というキャリアを武器に、菊川市の伸びしろに飛び込んだうめもんさん。彼女の視点は常にユーザーにあり、どうすれば街が使いやすく、魅力的に映るかを冷静かつ情熱的に分析しています。SNS発信という枠を超え、駅のリニューアルオープンのロゴデザインや資料館の改善、さらに謎のゴリラのキャラクター化まで。梅津有紀さんのクリエイティビティが、菊川市の日常をどう鮮やかに塗り替えていくのか。今後の展開が楽しみでなりません。
