福井県鯖江市。眼鏡の聖地として知られるこの街で、一人の青年が新しい挑戦を始めている。岩本和也さん、通称「がらぱごす」。彼は大学で保育を学び保育士資格を取得した後、日本一周を経てカメラマンとなり、現在は鯖江市を拠点に「子どもの第三の居場所」としての拠点を運営している。地域に溶け込み、子どもたちと大人が自然に交差する空間を目指す岩本さんに話を聞いた。

編集部:岩本さんは静岡県浜松市のご出身だそうですね。どのような経緯で鯖江市へ移住し、現在の活動を始めるに至ったのでしょうか。
岩本さん:もともと5人兄弟の長男として育ち、物心ついた頃から子どもに関わる仕事をすると思っていました。大学でも保育を学び、実際に保育士資格も取得しました。卒業を控えた時期に自分の視野を広げたいと考え、3ヶ月かけて日本一周の旅に出ました。その後、カメラマンとして活動する中で鯖江市と縁ができ、2024年11月に移住を決めました。現在は、子どもたちが家庭や学校以外で安心して過ごせる「第三の居場所」を作ることを目的に活動しています。
編集部:地域おこし協力隊になってから数ヶ月で、拠点をオープンされたと伺いました。そのスピード感には驚かされます。

岩本さん:2025年4月に鯖江市の地域おこし協力隊となり、11月末に「だがしや ゆるいばしょ」という名前の拠点をオープンしました。地域に根付くには、まず場所(拠点)集まれる場所が重要だと考えました。場所は、昔ながらの駄菓子屋の雰囲気を持つ6畳ほどのスペースと、その奥に広いフリースペースを設けています。
編集部:「だがしや ゆるいばしょ」を単なる商店ではなく、多世代が交流する場にしたいという想いがあるのですね。
岩本さん:はい。対象は0歳児から大学生まで幅広く設定しています。今の時代、異なる年齢の子どもたちが日常的に関わる機会は減っていますが、ここに来れば年上の子が年下の子の面倒を見たり、大人が子どもたちの遊びを見守ったりする光景が自然に生まれます。学校と家庭の中間地点のような、かつての近所の公園や縁側が持っていた機能を、現代的な形で再現したいと考えています。

編集部:運営面においても、持続可能なモデルを模索されているとのことですが、具体的にはどのような仕組みを考えているのでしょうか。
岩本さん:奈良県生駒市の「チロル堂」という先行事例を参考に、ドネーション(寄付)の仕組みを取り入れる予定です。実際に現地へ足を運び、この素晴らしいモデルを自らの活動にも活かしたいと相談したところ、快く真似をさせていただく許可をいただきました。大人が飲食やレンタルスペースの利用で少し多めにお金を払うことで、その余剰分が子どもたちの駄菓子代や体験代に充てられるというモデルです。大人が楽しみながら支払ったお金が、巡り巡って地域の子どもたちの笑顔に変わる。そんな循環を1年以内に実現したいと考えています。
編集部:拠点運営以外にも、地域食堂の運営など精力的に活動されていますね。
岩本さん:「みんなでごはん」という地域食堂を2ヶ月に1回開催しています。現在は数十人規模ですが、今後は100人規模まで拡大し、地域の人たちが天候に左右されず集まれる場にしていきたいです。参加費は子ども無料、大人は数百円と低く設定していますが、ここでも地域の方々と協力しながら、持続可能な形を整えている最中です。

編集部:カメラマンとしてのスキルも、活動に活かされているのでしょうか。
岩本さん:地域の子育てイベントなどでフォトブースを出し、親御さんに写真をプレゼントする活動をしています。拠点である「だがしや ゆるいばしょ」では、プロの機材で子どもたちの日常を切り取るような取り組みを広げていきたいです。写真は、その時の空気感を共有し、思い出を形に残すためのツールになります。
編集部:最後に、今後の展望を教えてください。
岩本さん:まずは「だがしや ゆるいばしょ」を地域の人たちに深く知ってもらうことです。SNSでの発信も大切ですが、まずは目の前の子どもたちや近隣の方々との対話を優先しています。ここで育った子どもたちが、将来またこの街に何かを返したくなるような、そんな温かい記憶の一部になれる場所を目指していきます。

編集後記
地域おこし協力隊就任からわずか数ヶ月で自らの拠点を構え、地域に深く入り込む岩本さんの行動力には目を見張るものがある。特筆すべきは、単なるボランティアではなく、大人が楽しみながら子どもを支える「ドネーションモデル」を積極的に取り入れようとするビジネス視点だ。
かつての日本にあった「地域で子どもを育てる」という仕組みを、駄菓子屋という親しみやすいフィルターを通して再構築する彼の試みは、希薄化する現代の人間関係において極めて重要な社会的インフラになる可能性を秘めている。鯖江の「だがしや ゆるいばしょ」から生まれる新しい交流の形に、今後も注目していきたい。
