恐竜の街・勝山から世界へ。地域のポテンシャルを経営視点で引き出す、DMOマネージャー・今井三偉さんの戦略的まちづくり。

福井県勝山市。世界有数の「恐竜博物館」を擁し、年間を通じて多くの観光客が訪れるこの街で、観光の枠を超えた「まちの経営」を担っているのが、勝山市観光まちづくり株式会社(勝山DMO)の今井 三偉(いまい みつい)さんです。マスコミ、スポーツビジネス、さらに家業での経験を経て、30歳で故郷・勝山へ。そこで彼を待っていたのは、地域の方々との信頼関係の中で託された「まちの再生」という大きな役割でした。


リーマンショック、スポーツ、さらに29歳の「帰郷宣言」

編集部:時事通信社での記者経験や、新潟でのプロサッカーチーム運営など、多彩なキャリアを歩まれていますね。なぜ30歳というタイミングで勝山に戻られたのでしょうか。

今井さん:実は、もともと「30歳までには地元に帰って、親の仕事(土木建設・造園業)を継ごう」と決めていたんです。大学時代にアメリカやベルギーへ留学し、世界を見て回る中で「自分たちが作るものを売る仕事」の面白さに気づきました。時事通信時代、スポーツチームとの仕事を通じて「マネジメントを学びたい」と強く思い、JAPANサッカーカレッジへ。そこで通訳やスカウト、チーム運営など、現場の最前線を4年間経験しました。

編集部:予定通り、29歳で契約満了とともに勝山へ戻られたわけですね。

今井さん:はい。家業に入って1年後、自分で新規事業の計画書を書いて銀行に融資を申し込んだんです。そこから、思いもよらない展開が始まりました。


地域の期待が重なり、若き力に託された組織の再建

編集部:融資の相談が、今のDMOでの活動にどう繋がったのでしょうか。

今井さん:銀行の支店長が、私の書いた事業計画と「地元で新しいことに挑戦したい」という姿勢を評価してくださったんです。ただ、その評価がきっかけとなり、地域の課題解決に向けた具体的な相談へと繋がっていきました。

今井さん:融資相談から1ヶ月後、支店長から「この組織へ行ってほしい」と打診を受けました。周囲の方々が連携して、私が存分に力を発揮できる場を用意してくれた。そうした地域の後押しもあり、観光とまちづくりの世界へ足を踏み出すことになりました。

自らリスクを取って起業しようとしていた今井さんのエネルギーを、地域が放っておきませんでした。ご家族をはじめとする地域の諸先輩方が、次世代のリーダーとして彼を指名し、重要なポストを託した。そこには、今井さんのキャリアへの信頼と、勝山の未来を官民一体で盛り上げようとする強い結束力が感じられます。


「地域の御用聞き」から「稼げるプラットフォーム」へ

編集部:就任当時、組織をどのように変えていこうと考えましたか。

今井さん:収益を最大化し、行政に頼らなくても自立して回る仕組みを作ることに集中しました。まず取り組んだのは、恐竜博物館の前にある売店(ジオターミナル)の建設です。

今井さん:ニーズを無視して「置きたいもの」を置くのではなく、マーケットを冷静に分析しました。お客さんが求めているものを突き詰めた結果、品揃えを恐竜に全振りする決断をしました。恐竜グッズの品揃えで日本トップクラスを目指し、オリジナル商品の開発にも注力。今では圧倒的なワクワク感を提供できる「恐竜専門店」として、売上は大きく成長しました。


数字の追求を越え、勝山の「価値」を再定義する

編集部:今後のビジョンについて、集客の先にある「価値」の部分をどうお考えですか。

今井さん:これからの地方に求められるのは、地域の付加価値を適切にブランディングすることです。単に効率よく集客の数字を追うよりも、勝山の価値を深く理解し、愛着を持ってくださるファンを丁寧につくっていきたいと考えています。そのための具体的な仕掛けとして、地のもの(地場産品)を集約する複合施設「かつやま青果市場」を、道の駅「恐竜渓谷かつやま」の隣にオープンさせました。

今井さん:今は、勝山市内にある多様な商材を改めて見つめ直し、どの商品が地域の既存事業者と競合せず、かつ新しい価値を提案できるかを慎重に見極めています。例えば、新しくオープンしたケーキ屋では、あえて地元の相場の倍近い価格帯の「高付加価値なスイーツ」を提供しています。これは単に高く売ることが目的ではなく、勝山という場所で育まれた素材や技術には、それだけの価値があるというブランドを確立したいからです。安価なものを大量に売る薄利多売のモデルではなく、地域が誇りを持てる価格で、それに見合う感動を提供すること。それが、持続可能なまちづくりの第一歩だと信じています。


3年越しの情熱でプロを招き、現場の熱量を最大化する

編集部:事業をドライブさせる上で、最も大切にしていることは何でしょうか。

今井さん:地域活性化とは、結局のところ「人」の力を最大化することに他なりません。どれだけ優れた計画や立派な建物があっても、それを動かす人間の熱量とスキルがなければ、魂は宿りません。だからこそ私は、人材の確保には一切の妥協をしません。

今井さん:現在、飲食部門のトップを務めているスタッフは、地元出身の非常に優秀なパティシエですが、実は彼を迎えるまでに3年もの月日をかけて口説き続けました。彼が培ってきた専門性と、私が描く地域のビジョンをすり合わせ、彼自身が「ここで挑戦したい」と思えるフィールドを整える。プロフェッショナルがその能力を存分に発揮できる環境を作り、そこに勝山ならではの資源を掛け合わせることで、初めて化学反応が起きます。そうして生まれた「ここでしか味わえない体験」が、結果として滞在時間の延長や、何度も訪れたくなる深い愛着に繋がっていく。私たちは単に商品を売っているのではなく、勝山という街への「信頼」を積み上げているのだと感じています。

MOOIメニュー

星野リゾートを見据え、街全体を「極上のリゾート」へ

編集部:今後の展開として、勝山の宿泊やインバウンドについてはどう描いていますか。

今井さん:今の勝山には、実は「泊まりたいけれど泊まれない」という宿不足の課題があります。しかし、来年以降には星野リゾートをはじめとする複数の大型ホテル計画が進んでいます。この変化は、街にとって大きな転換点になります。

今井さん:富裕層やインバウンド層が訪れるようになったとき、私たちは単に「安いお土産」を用意するのではなく、街全体のクオリティを底上げしてお迎えしなければなりません。私たちがプラットフォームとして地のものを集約し、各ホテルや飲食店と連携することで、勝山の魅力を全方位から提案できる仕組みを整えています。自然、文化、そして食。これらを「リゾート」として再編集し、世界中から選ばれる街にする。かつて地域が私に託してくれた「新しい勝山の形」は、今まさに実を結び始めています。

道の駅内観

「地域を支えてきた諸先輩方の信頼を力に変えながら、自ら経営戦略の策定から現場の指揮までを一貫して担う」という今井さんのスタイルは、地域から大きな期待を背負って就任した彼ならではのバランス感覚です。リスクを恐れず投資をドライブさせる決断力と、地域内での調和を大切にする冷静さ。その確かな手腕の根底には、自分を迎え入れてくれた勝山という街への深い愛着と、次世代へ豊かな街を繋ぎたいという強い責任感が流れています。


編集後記

「経営はアートではなくサイエンスだ」と言わんばかりの冷静な分析と、人を惹きつける情熱。今井さんのもとには、そのビジョンに共感したスペシャリストたちが続々と集まっています。かつて「勝山の新しい形を作ってほしい」と地域が期待を寄せて呼び戻した一人の青年は、今、点と点を線で結び、街全体を世界に誇るリゾートへと進化させる大きなうねりを作り出しています。